生命保険社医は知っている(今井夏三)

丸の内生命(仮)の元社医が書いた、大手生命保険会社の実態です。グループ会社をモデルにして、タイヤが空を飛んだWOWOWドラマも作られました。2018年夏には映画も公開されています

2018年08月

目次だけではよくわからないと思うので、本のさわりの紹介

第一章 入社するまで
生命保険の社医になるためには、まず医師免許を持っていなければならないが、どうやって入社するのか?
学生時代に会社訪問をして就職活動をして入社するわけではない。当時は雑誌の求人広告を見て応募する者が多かった。
生命保険社医の希望者は少なく、応募すればまず採用された時代もあり、ニセ医者を採用してしまった会社もあった。しかし、臨床医に対して保険会社社医の相対的魅力がアップすると、保険会社も採用に強気に出るようになった。
入社した後の研修はせいぜい1週間であっという間に独り立ち。配属先で明暗を分けるが、地方駐在社医として配属されると労働条件は悪くなり、日曜でも深夜でも自宅に営業所から電話がかかってきたりもする。
まあ、最初は「先生、先生と」おだてられても結局は会社にとっては社医は使い捨て要員。会社の中での階級は低く、結局半ば追い出されるようにして辞める社医が多い。
さて、一社医として私が何を見、体験したのか書いていこう


他の先進国では厳しく制限されているところが多いらしいユニオンショップ制の労働組合だが、丸の内生命でも、他の多くの大企業と同様にこの制度を取っている。
この制度は、会社に入社と同時に会社の労働組合への加入が強制され、労働組合をやめたり除名されたりしたら会社もクビというものである。
こうしたユニオンショップ制の組合では組合は第二人事部と化し、組合の幹部は出世コースになることが多い。
また、何か問題が従業員と会社の間で起こっても、組合なんかは何の助けにもならないと多くの人が思っている。
実際、私の上司のK多センター長も、有給休暇を取ろうとすると本当かどうか知らないが「組合が黙っていない」と言い訳にして取らせなかったりした。また、営業所の人でも自分に何か気に入らないことが社医にあると「組合に訴えてやる」という人もいる。
会社と従業員のトラブルには第二人事部の組合は関与しない困ったものだが、社員同士のトラブルには会社がトクをしそうなことなら関与する可能性がある。
別に社医は経営陣でも何でもないのに、なんで有給休暇を取ったり土日に休んでいたら組合に訴えられなければならないのか?
そんな組合には会費など納めたくないのだが、ユニオンショップ制なのでやめることはできない。
多くの会社では、ユニオンショップ制なので仕方なく加入している・もしくは気づかずに加入している組合員が多いが、やめたくともやめられない人は多い。
しかし、実は組合を脱退することができるのは最高裁で判例はすでに確定している。新しく組合を作って・もしくはすでにある社外の組合などに入れば、組合を除名になっても会社が従業員をクビにすることはできない。
ただし、組合をやめたあとに他の組合に入ったり新しい組合を作っても、会社に解雇する口実を与えることになりかねない。それを避けるためには、組合を脱退する前に他の組合を作ったり所属したりして重複して2つの組合に所属しておく期間を作ることが重要である。
まあ、会社や組合から不当な扱いを受けて裁判を起こしたり起こそうとしたりしている人でなければ、そこまでして会社の御用組合を抜けようとする人もいないだろうが。

私がはじめにいた医務センターでは、会社の方針なのかK多センター長の方針なのか、社医には有給休暇をなるべく取らせない方針だった。まあ、本でも書いたように人事部からは「有給休暇を半分以上取った者は昇進に影響する」というような情報が流れてきていたし、センター長は自分の好き嫌いによって(?)休みを許可する社医と許可しない社医を区別していたので、会社の方針半分・センター長の好き嫌い半分といったところが正解かもしれない。
とにかく、K多センター長は、自分のお気に入りか怖い(?)社医にしか、どんなに暇な時でも有給休暇を取らせない。しかし、一生会社に勤めようと思って入社した社医でも、あまりに会社から使い捨てのように扱われるので、半ば追い出されるようにして・もしくは自分から見切りをつけて多くの人が数年以内には辞めてしまうので、取らせなかった有給休暇はどうなるのか?
円満退社・もしくは円満退社にしたかった社医は、会社に気を使って(もしくぱ気が弱くて)有給休暇を放棄して辞めるのかもしれない。しかし、私のように会社から嫌がらせを受けて本を出そうと思った社医が、そんな気を使うわけはない。
結局、私は2週間以上出勤した後40日間の有給休暇を消化し、区切りにいい月末が退職日となるように計算した日に辞表を提出した。
実は、ほぼ同時期に同じフロアにいた机がすぐ近くの他の社医も辞めたのだが、有給休暇取得を遠慮したのか、私よりも先に辞表を出して退職日も早いのに、私よりも後まで会社で働くことになった。
要するに、2か月分の給料を放棄してドブに捨ててしまった形になるので、(なんだ、遠慮する必要はなかったのか!と)私がすべて消化して会社に出なくとも給料が出るのを知って非常に残念がっていた。
しかし、一度提出した退職届は撤回できないので、結局そのままになったようである。
有給休暇を取っていない者に対して取るように指導して、なるべく消化を100%近くにもっていこうとする会社もあるのに対し、丸の内生命は取らせない方針で、半分以上取ったら左遷で平気で遠方へ飛ばしたりする。
辞めたいと思っていてももなかなか辞めない営業所長などに対しては、有給休暇を取らせないことによって毎年20日間の有給休暇を消滅させることができれば、会社にとって大きな賃金の節約になる。
しかし、4年以上勤めている社医に有給休暇を毎年消滅させることができたら会社は儲かるが、社医は有給休暇が消滅する前に辞める人が多い。
私のようにどんな暇な時期にでも有給休暇を認めなかったため、最後にまとめて40日間取得されたら会社は損なのではないか?会社は馬鹿なのか?
実際は、ほぼ同時期に辞めた社医のように遠慮して有給休暇の放棄を期待しているのが半分。放棄せずに最後にまとめて使われても、他の職員への威嚇のために社医でも有給休暇は取れないと見せつけることができ、元が取れたのでヨシが半分だと思う。

「生命保険社医は知っている」を出版してから3年後に、今ではすでに死刑判決が確定している夏祭りでのヒ素カレー殺人事件が起きた。
林真須美はまず保険金詐欺の容疑で逮捕されたこともあり、TV局のデータ班?が私の本を探してきたのだろう・テレビ朝日から取材依頼のFAXが送られてきた(出版当時はメールアドレスなんてものはなく、単行本にFAX番号を載せていた。今、古本を買ってもそのFAX番号はないので送信できない)。
返信になんと出したかははっきりとはしていないのだが、多分「テレビ出演などはできないが、内容によっては協力できることがあるかも」というような返信を出したと思う。
その返信FAXは担当者のもとに届かなかったのか、それとも見たけれどテレビ出演しない者に興味がなかったのかそれに対しての返答はなかった。
宝島社も、生命保険の保険金詐欺が連日話題になっているこの機会に増刷して売り出せば、けっこう売れたとは思うのだが・・・

その後、テレビで「生命保険Gメンが見た現実と忠告 福嶋正人 近代文芸社」の著者が
テレビに出ていたのを見た記憶がある。これは、私の本のあとに出たものだが、当時の定価2233円ならあまりおすすめできる本ではない。 現在アマゾンでは送料含めて古本400円以下の出品が2つあるので、その値段ならいいので興味のある人は早めに確保するといいかもしれない。
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別冊宝島の生命保険の原稿で、生命保険に入れない職業(やめたあとでも?)があるが仕事で死ぬわけではないのにおかしいのではないか・・・というような原稿をみてチェックすることを頼まれたことがある。
まあ、超危険なことを職業としているスタントマンなんかは確かに生命保険に入れないかもしれない。
しかし、命にかかわることをしていない職業の人が健康だとしても無条件で保険に入れるわけではない。
例えば、アスベストをずっと扱っていた仕事の人は健康で今はその仕事をしていなくても、将来肺がんで死亡する危険性が非常に高く、言えば生命保険は難しいかもしれない。ただし、保険加入の際の告知では過去の職業など告知する義務はないので言わなければ問題ないだろう。

しかし、ある特定の職業や団体の人で申し込んだ生命保険契約が流れることは多い。
一般の会社の健康診断でも、大手一流企業の人は健康な人の割合が高いが、社員は200くらいの高血圧だらけ・不整脈も糖尿病も多いというような会社もある。

実は、ある特定の職業などで申し込んだ保険がほとんど流れるというのは、会社が加入を断っているのではなく、本人が断っているのである。そういった職業の人は健康の悪い人も多いのだが、健康で割増保険料を提示されなくとも本人が保険契約を断ってくる。

死ぬ職業ではないが入院する可能性が非常に高いので、入院特約を断られるのである。入院給付金が欲しいので保険に加入しようとする人は、入院特約が付けられないと自分で加入を取りやめる。つまり、職業によって生命保険に入れないのではなく、入院特約が付けられないから本人が断るのである。実は、そういった職業の人は健康にも気を使わない人が多いので、実際にも早く死ぬ確率は高くなるとは思うが・・・

入院する可能性が高いといっても、別に危険な仕事をしているわけではない。公務員なら、仕事をやめてまで入院しようとする人はまれであろうが、こういった仕事の人はできれば会社をやめたいと思っていたり、長く勤めようと思っていなかったりするので保険に入っていればすぐに入院する。

結論として、ある職業の人は生命保険会社が死亡危険性が高いから断っているのではなく、入院する可能性が高いから入院特約が付けられないので本人が断っているということである。

人生で、一度でも危険な仕事についたことのある人は、その後の人生でも危険な仕事についたり健康に気を使わない人の割合が多く、寿命が短くなる可能性もあるだろう。
そういったことを話したら、結局当初原稿はボツになったようである。

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